株式会社わかばケアセンター 居宅業務管理課 課長
遠藤 貴美子
ケアマネジャー3人の小さな居宅介護支援事業所から、突然、50名以上の居宅介護支援事業所で仕事をすることになって10年が経過しました。慣れない環境に出社拒否もありましたが、今となっては良い思い出です。人生なんでも経験だな~としみじみ思います。
シャドウ・ワークって?
介護保険制度がスタートして22年が経過し、65歳以上の被保険者数は約1.7倍に増加、サービス利用者数も約3.5倍に増加 しています。もはや、介護保険制度は広く浸透し、高齢者の生活を支える一部になっていることがよくわかります。
さて、介護保険制度の利用者が増える一方で、私達ケアマネジャー業務にも増えていることが色々とありますね。
今日は、その「増えている業務をどこまでやるべきか」について考えたいと思います。
皆さんは「シャドウ・ワーク」という言葉をご存知ですか?
シャドウ・ワーク(shadow work)とは、イヴァン・イリイチの造語で、専業主婦などの家事労働など報酬を受けない仕事、つまり「影の仕事」という意味です。
給与が発生しないけど、会社に移動しなければならないという通勤時間なんかもこれにあたると言われています。
では、ケアマネジャーが行っている仕事の中にこのシャドウ・ワークはあるでしょうか?
「報酬にならない影の仕事?」……。
たくさんありますね!!!
皆さんの頭にはいくつ思い浮かびましたか?
ケアマネジャーが行っているシャドウ・ワーク
表1 シャドウ・ワークの例
表1は、私が今までのケアマネジャー人生でおこなってきたシャドウ・ワークです。
この表を見た方は、「こんなことまでやっていいの?」や「私はもっとやっているよ」など反応は様々だと思います。
もちろん、私もいきなり利用者さんの家で洗濯をしたり、お願いされてもいないのに通院同行をしたりはしません。表1のどれも、何かの事情があって仕方なく行ったというシャドウ・ワークです。
昨今、独居や高齢世帯の増加により、ケアマネジャーが行うこのシャドウ・ワークが増加しています。
しかし、やりすぎてしまうと「便利屋ケアマネジャー」になってしまいますし、やらなさすぎると「何もしないケアマネジャー」という批判を受けることになります。
利用者さんの生活への配慮、ケースに関わるメンバーの意見、そしてケアマネジャーとしてやるべきことなのかという葛藤を繰り返し「私がやれば丸く収まる」という諦めの気持ちで仕方がなく行うというのが皆さんの本音ではないでしょうか。
シャドウ・ワークをどこまでやるのかの境界線
私の会社には約70人のケアマネジャーが在籍しています。
これだけの人数がいれば、このシャドウ・ワークに対する考え方や動きも様々です。
ある時、シャドウ・ワークをやりすぎてしまう職員を観察していると、1ケースに時間がかかりすぎて他の仕事ができない→残業時間の増加→休日出勤→疲れてきてミスが増えるなどなど仕事だけではなく本人のプライベートにも影響を及ぼしていると感じました。
では、このシャドウ・ワークをやる・やらない、の線引きはどうしたら良いのでしょうか?
(1)自費サービスや有償ボランティアなど他のサービスはないか
(2)区市町村の独自サービスはないか
(3)遠方でも良いので家族や親戚はいないか
(4)ケアマネが関わる時間を短時間にできないか
(例えば院内だけCM、自宅⇔病院はヘルパーなど)
(5)法的なリスクはあるか
ご参考までに、まず私はこの5つを考えるようにしています。
そして、考えた末に「ケアマネジャーがやるしかないか」という結論になった時、シャドウ・ワークを始める前に利用者さんに必ず伝える言葉があります。
「今日は特別ね」
これは、ケアマネジャーがやるのは当たり前を防止するために必ず伝えるようにしています。これをやらないと、ケアマネジャーが交代した時などに「前のケアマネジャーはやってくれたのに」とトラブルになります。
そんな思いをするのはお互いに悲しいですよね。
もちろん、緊急の場合やちょっとした書類の記入なんかはこんな言葉をかけていません。
私の先輩ケアマネジャーは、洗濯拒否がある人と1ヶ月共に洗濯を行い、後にヘルパーを導入できたという事例もありました。
通院同行の長~い待ち時間の間におこなった会話の中で知らなかった情報を得たり、帰り際に「お仕事あるのに長時間付き合わせてごめんなさいね」なんて言われると、事務所で山のような事務作業が待っているという憂鬱な気持ちも一時忘れられますね。
要するに、なんでもやってはだめというわけではありません。
シャドウ・ワークが全て悪いことだとも思っていません。
どこで線を引くのか。
「自分はやりすぎてしまうな」というケアマネジャーさんは、周りの人がどうしているのかも参考にしながら、ぜひ一度考えてもらいたいと思います。
自分の支援を振り返ることは、後に自分の成長に繋がりますから。
[1] 社保審給付費分科会 第217回(R5.5.24)資料1