さんかくしおハッカ(高畑俊介)
介護支援専門員
WEBデザイナー
介護コンサルタント
「さんかくしおハッカ」という名前で活動しています。各種SNSでは、高齢者介護を行っている家族や、介護をお仕事にされている方に向けた情報発信をおこなっています。モットーは「幸せな介護職員を世の中に増やしたい」。令和5年にフリーコンサルとして起業し、介護事業所の組織マネジメントやコンセプト作り、ブランディング支援に関するサービスを行なっています。
最近、ケアマネジャーのシャドーワークがよく話題に上がっています。
「シャドーワーク」の定義について考察し、ケアマネジャーの役割とやりがいについてお伝えします。
背景:「ケアマネのシャドーワーク」問題
「ゴミ出し」「買い物」「金融機関の手続き」「荷物の搬送」
ケアマネジャーが行う、こうした業務に疑問の目が向けられています。
今年の4月から厚生労働省・老健局が実施する「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」についても、ケアマネジャーの業務範囲の整理がたびたび議論に上がっています。
ネット上では「これは、ケアマネの業務ではない」「やるなら加算をあげてほしい」などと、やや熱を帯びた発信が目につくようになりました。こうした現場の声が前述の検討会でどのように整理されていくのか、とても注目されています。
ケアマネジャーが行う本来業務の整理は確かに必要なことかもしれません。
それはケアマネジャー自身や本人家族が、目の前のイレギュラーな対応について「当たり前ではない」という共通した認識を持つことによって、その課題を解決するための手段を一緒に考えるきっかけになるからです。
さて、ではここで一つご質問です。
ケアマネジャーの本来業務を明確化したところで、イレギュラーな対応を求められる場面が劇的に減ることなどあるのでしょうか?
おそらく答えは「No」です。
高齢化率の上昇、労働生産人口の減少、そして何より介護を仕事にする人々の慢性的な不足が進行するこの日本においては、ますますこうした悩ましい場面に遭遇することが増えるでしょう。
つまり、業務の内容で線引きをするのはほとんど不可能なのです。
では、どのような「軸」を持って、このシャドーワークの問題と向き合っていけば良いのでしょうか?
私の個人的な(現在、思う)着地点をお話しします。
介護保険の本分は「自立支援」
私たちケアマネジャーはいわゆる相談援助・間接支援の専門職です。
その意味では、実際にクライアントに直接的な介助を行なったり、身の回りのサポートを行うことはしません。
それよりも、クライアント本人・家族を中心に医療・介護のサービス機関や、行政、地域のインフォーマルなマンパワーも含めた結びつきを構築し、クライアント本人が「自立した日常生活」を営むことができるようサポートするのが大きな役割です。
ここで大事なのは、ケアマネジャーの仕事の目的は「間接業務・関連サービスの調整」という前提を持ちつつも、最終的には「本人の自立した日常生活」の確保だということです。
例えば、毎回のようにケアマネジャーが出動し、そこに必要な社会資源を当てがわないままクライアントがケアマネジャーの行動に依存している場合はどうでしょう?
これは選択肢もなく、主体性もない「自立」とは程遠い状況でしょう。
しかし、サービス機関との調整をした上で「どうしてもこの部分だけ一時的に人手が足りない。ちょっと手伝ってもらえないですか。対応してもらえないですか」という依頼に対応するのは、自立を阻害したことにはならないと思えます。
「自立(自律)」とは自分の生き方を自分で決定できることを意味します。
その目的を実現するために、一時的に要求に応えることはケアマネジャーとしての大切な役割のようにとすら感じています。こうした葛藤は、この職種において当然にあるものと考えて良いでしょう。
その証拠に、令和6年6月24日に行われた前述の厚労省の検討会において次のような報告がなされています。
「調査では、ケアマネジャー業務を遂行する上で、業務範囲内で仕事をすることが大切と考えている人は51.8%、一方で、必要であれば現行のケアマネジャー業務範囲外のことも対応することが大切であると考えている人たちは47%でした。」
(引用元:ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会(第3回)議事録)
これは何より、ケアマネジャーが行う業務の内容以前に、「クライアント本人のためにどうするべきか」を迷ってしまうケアマネジャーが多いことを示しているのではないかと感じてしまいます。
ケアマネは「チームプレイ」の火付け役!
ケアマネジャーが一歩踏み込んだ支援をすると良い理由はまだあります。
先ほど、ケアマネジャーはサービス機関やその他の資源を結びつける存在だと言いました。
この文章は、これまで多くのケースをご担当されている全国のケアマネジャーさんが読まれていると思います。
課題の多い大変なケースを担当したとき。
それぞれのサービス関係者が少しずつ自分たちの職域を超えて、クライアントを包む輪が大きくなっていく実感を得ながらケースの対応した経験はないでしょうか?
この時、私たちの頭にあるのは純粋な「助け合い」の気持ちです。
困難な事例であればあるほど、チームプレイを成功させることが不可欠です。
そんな時にお互いが自分たちの保身にばかり目を向け、みんなで協力する姿勢を忘れてしまっては、むしろケアマネジャーを苦しめるばかりです。
そんな時に空気を変えるのが「そこは私が対応します!」というケアマネジャーの一言だったりします。
間接業務が本来の役割だからこそ、その善意に応えたいという関係者の気持ちを揺さぶります。
どんな時もお互い様。
クライアントを支えるという意味において、そこに職種の区別はありません。
私たちがその口火を切ることで、好循環が生まれることもあるはずです。そこでは、クライアントはもちろんのこと、サービス関係者全員が見る景色も変わってくることでしょう。
ケアマネの仕事は個人ワークではありません。
まさにチームケアの火付け役なのです。
まとめ
確かに継続した議論は必要です。
仕事の整理をして、社会的な地位も確立していかなければいけません。
ケアマネジャーの時間や精神状態が当たり前のように削られ、疲弊している現場スタッフがいることも事実だと思っています。
しかし、そういう時こそ思い出さなければいけません。
この仕事は助け合い。この仕事はチームプレイなんだと。
何をしたから正解、不正解ということはありません。
正解のない世界で私たちは働いています。
しかし、クライアントにとっても、そしてその他のサービス機関からも「あなたが居てくれてよかった」と言ってもらえる仕事こそが、最大のやりがいにつながるのではないでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。