悩む「ケアマネ不足」~確保した人材が生き生きと働くために~

わかばケアセンター 居宅業務管理課 主任介護支援専門員
歯科衛生士/社会福祉士
遠藤 貴美子

「学びを継続する」という思いを大切に、
様々なことにチャレンジしています。
自分の可能性が広がっていくことを楽しんでいます。

世の中はどの職種も人材不足でありますが、ケアマネ不足も例外ではありません。
せっかく確保した大切な人材をどうやって定着させるのかを考えてみましょう。

数年前、工場見学がちょとしたブームになったことがありました。私もそのブームに乗ってネットで工場見学ができる場所を探すと、あるお菓子メーカーがヒットしました。そのお菓子は誰しもが一度は口にしたことがある有名なチョコレート菓子です。工場見学に行くまでは、そのお菓子はたくさんの人が白衣を着て手作業でチョコレートを吹きかけて・・・なんて想像していたのですが、実際は人間の姿はまばらで制作過程のほとんどを機械が行っていました。一番驚いたのは売り場に並んでいるようにきれいに出来上がったお菓子の箱が、出荷用の段ボールに箱詰めされる作業です。段ボールはたたまれて板のようになっているのですが、それを機械が一瞬でひろげて箱型に組み立てるのです。なるほど、人間が手作業で行うよりも何倍も早く段ボール箱にすることができるのねと関心しました。

このときの事を思い出すと工場のようにアセスメントがぱっと完成するとか、ケアマネ業界の人材不足も機械の導入で解決できると助かるな~と願ってしまうところですが、私達の業務であるケアマネジメントは人の心を対象としていますし、「これ、ケアマネの仕事?!」という内容も増えてますから、一部をAIなどの導入で負担軽減することができたとしてもすべてを機械にお任せするのは無理な話ですね。しかし最近は、どこに行っても「ねえ、どこかにケアマネいない?」という話から始まります。「募集してもだれも来ない」「採用したけどすぐに辞めた」など、経営者や管理者にとってケアマネジャーの確保と継続して働いてもらうことは大きな悩みの種となっています。

この原因として考えられること。

それはこのコラムを読んでいるみなさんならいくつも浮かんでくるでしょう。

受験者数も合格者数も少ないとか、待遇面が悪いなど、その他多数ですね。

しかし今回はケアマネジャーが入職した後の話、「確保した人材をどうやって定着させるか」これを考えていきましょう。

図1は令和5年の調査研究事業で得られた結果です。直近3年間のケアマネジャーの離職原因では、「離職者はいない」が最も多いですが、離職者がいる場合は「年齢・体力面」「賃金・処遇面」「事務作業の多さ」が挙げられています。ケアマネジャーは基本的にフットワークの軽さが求められますし、日中、事務所を不在にする分、帰社後には書類整理が待っているものです。そして、残業しないと事務作業が終わらないという長時間勤務の割には賃金が安いということは周知の事実ですが、そのような現状でも「離職者がいない」と返答した事業所が半数以上の理由はなんでしょうか?

図1:居宅介護支援事業所における離職要因

 

生産性向上への一つの方法として、メイヨーのホーソン工場実験が挙げられます。メイヨーとレスリバーガーは、シカゴのホーソン工場で照明を明るくした状態のほうが生産性がアップするという仮設を立てて実験を行い、作業効率は物理的な作業条件(ここでは照明が明るい状態)よりも人間関係や人間的満足度が大きく影響するという結論を導き出しました。この考え方は今日の組織と経営の理論でも活用されています。つまり、離職者がいない事業所を作るには賃金面の優遇や事務の負担軽減だけではなく、職員の感情に寄り添うなどの人間関係を整えることも重要な要素だということです。

この考え方、私は「ワークエンゲージメント」という考え方に近いと思います。ワークエンゲージメントとは、仕事に対するポジティブで充実した心理状態であることを指し、活力・熱意・没頭の3つの要素が満たされることです。ワークエンゲージメントが高まると、私生活も充実し離職率が低下、組織効力感(組織全体が目標を達成できる、成功できると自信を持って挑戦する力がある状態)が高まることが明らかになっています。ワークエンゲージメントの実例として、いつでも誰かに相談できるような体制や、業務負担の軽減、ライフサイクルに合わせた働き方の仕組みづくり(有給の取得しやすさや柔軟な考え方)などがあります。職員に寄り添った職場環境作りを行っているということですね。

しかし、なんでも職員の要望を聞けば良しというわけではありません。

経営者や管理者は人材不足のため、ケアマネジャーが燃え尽きないように、離職しないようにという思いを優先していないでしょうか?

必要な指導をすることなくケアマネジメントの質よりもケアマネジャーの数を重視していませんか?私も管理者をしていたので現場の「ケアマネいなくなったら困るし。仕方ないよな~」という気持ちはとってもよくわかるのですが、これを継続すると経営者や管理者を悩ます「扱いにくいケアマネジャー」がどんどん増産されるだけです。時には、扱いにくいケアマネジャー同士でグループを作る(複数だとさらに扱いにくさが増す)→事業所の雰囲気が悪くなる→誰も逆らえない→良い人材が退職するという負のループになることもあります。

ワークエンゲージメントについては様々な研究や取り組みが発表されていますので、経営者や管理者だけではなく、事業所の皆さんで様々な文献を調べ共有してみてください。そして、確保した人材が生き生きと働くためには、どのような事業所運営をおこなっていくべきなのかを考えるきっかけとなり、離職防止につながるようなヒントがみつかることを願っています。